【映画】あん(監督・脚本:河瀬直美)

 

 

竹籠の網目とすり合う小豆、

ぐつぐつぐつと静かにひたすらに煮立つ小豆、

主人公に手一杯掬い上げられた水飴

 

いつだって食べ物の映像は、

じんわりと幸せを伝えてくる。

それ以上でもそれ以下でもない深い幸せを感じる。

映画「あん」には誰にも奪うことのできない幸せが描かれている。

 

まだ若くて「幸せ」を奪われたばかりの主人公に、

奪われない幸せについて、餡を通してお婆さんはそっと伝える。

ハンセン病患者として若い頃からずっと「幸せ」を奪われ続けていたお婆さんの

幸せは、誰の手にも掛けられないほど高くて、掴もうとしてもつかめない。

むしろそれを掴むことは意味のないこと。

それは特別なものではなくすべての人の隣に、そこにいつでもあるものだから。

 

そこにあることに気がつくことができれば、

もう誰にも幸せを奪われることはない。

そう勇気付けられる映画だった。

 

掴むから、手放すのが怖くなる。

そこにあることを感じられれば、消えてなくなることはない。